Freshness preservation
鮮度保持方法
魚の鮮度を保つ重要性とは
釣った魚は、釣り上げた直後からさまざまな死後変化が進みます。魚の品質を保ちながら持ち帰るには、
魚種や用途に応じた致死処理、必要に応じた血抜き、そして速やかな冷却と低温維持が重要です。
ここでは、釣った魚の鮮度を保つための基本的な考え方と方法を紹介します。
なぜ釣った直後の処理が重要なのか
魚は死後、ATP関連化合物の変化やpHの変化、硬直、自己消化、微生物の増殖など、さまざまな変化が進みます。これらは魚の鮮度や身質、食感などに関係します。
また、こうした変化の進み方は、魚種や保存温度などの条件によって異なります。例えばカンパチを対象とした研究では、保存温度によってATP関連化合物やアミノ酸などの変化速度に違いが確認されています。
そのため、釣り上げた後はできるだけ早く適切な処理を行い、その後、魚体を速やかに冷却することが重要です。
活け締め、神経締め、血抜きなどには、それぞれ異なる目的や特徴があります。また、処理による効果は魚種、サイズ、処理方法、保存条件などによって異なるため、すべての魚に同じ方法が適しているとは限りません。
鮮度で変わる味・食感・安全性
魚は時間の経過とともに、食感や風味などが変化します。
魚種や処理、保存条件によっては、時間の経過によって食感や風味が変化し、その変化を利用して「熟成」として提供される場合もあります。一方、食感や風味の変化と、腐敗や食中毒などによる安全性の問題は分けて考える必要があります。
また、鮮度が良いことと、安全に生食できることも別の問題です。
例えばアニサキスは、鮮度の良い魚にも寄生している場合があります。さらに、魚が死亡した後、内臓に寄生していたアニサキス幼虫が筋肉へ移動することも知られています。また、魚が生きている時点から筋肉に寄生している場合もあります。
そのため、「新鮮だから生で食べても安全」とは限りません。生食する場合は、アニサキスなどの寄生虫や食中毒のリスクについても注意が必要です。
魚の鮮度を保つ基本の流れ
【初心者向け】
魚の鮮度を保つためには、釣り上げてから持ち帰るまで、一連の温度・衛生管理を行うことが重要です。
① できるだけ早く適切に締める
魚を釣り上げたら、できるだけ早く適切な方法で致死処理を行います。
活け締めは、生きた魚を速やかに致死させる処理を指し、血抜きや神経締めなどを組み合わせて行う場合があります。水産庁も、活け締めや神経締めなどを魚の鮮度保持を目的とした処理として紹介しています。
神経締めは、致死処理を行った魚の脊髄を専用器具などで破壊する処理です。魚種や条件によって効果は異なりますが、シマアジを対象とした研究では、神経締めによって野締めより鮮度低下が遅くなることが確認されています。
一方、神経締めの効果をすべての魚にそのまま当てはめることはできません。魚種や保存条件などによって結果が異なる可能性があるため、「神経締めをすればすべての魚で鮮度が長持ちする」と考えるのではなく、魚種や持ち帰るまでの時間などに応じて処理方法を選ぶことが大切です。
② 必要に応じて血抜きを行う
血抜きは、魚体から血液を排出させる処理です。
血液の残留は、魚種や保存条件によって魚肉の色や風味などに影響することがあります。例えばカツオを対象とした研究では、脱血した魚でアルデヒド類やアルコール類が少なく、血液と脂質の反応によってこれらの成分が生成する可能性が示されています。脱血処理によって、これらの臭いに関係する成分を低減できる可能性も示されています。また、別の研究でも、魚の処理方法による肉質や成分の違いが検討されています。ただし、これらは特定の魚種や条件で得られた研究結果です。すべての魚で血抜きによって同じ効果が得られるとは限りません。血抜きをする場合は、魚種に適した方法でできるだけ早く処理し、その後は速やかに冷却しましょう。
③しっかり冷やす
締めや必要な処理が終わったら、できるだけ早く魚を冷却します。
魚の温度を速やかに下げ、その後も低温を維持することで、死後の品質変化を抑えやすくなります。保存温度が異なると、ATP関連化合物などの変化速度にも違いが生じることが研究で確認されています。氷や氷と水を組み合わせた冷却方法などを利用し、移動中も魚の温度が上がらないように管理しましょう。魚の冷却では、魚体をできるだけ速やかに低温にし、持ち帰るまで低温を維持することが重要です。ただし、適した温度や方法は魚種、サイズ、保存時間、用途などによって異なります。
④ クーラーボックスで保冷する
処理した魚は、クーラーボックスなどを利用して低温を保ちながら持ち帰ります。
魚を冷やす際は、魚全体が十分に冷却されるようにすることが大切です。
氷を使う場合、魚と氷を直接接触させてはいけないと一律に考える必要はありません。魚と氷が直接接触することで、魚から熱が奪われ、冷却が進みます。
一方で、使用する氷や容器などが衛生的であることも重要です。融けた水や魚の汁が他の食品に触れないようにするなど、衛生面にも注意しましょう。
重要なのは、魚をできるだけ早く冷却し、持ち帰るまで適切な低温を維持することです。
血抜きの考え方とポイント
血抜きは、魚の品質や風味などに影響する可能性がある処理の一つです。
ただし、血抜きだけで魚の鮮度を維持できるわけではありません。
魚種によって血抜きの効果は異なるため、締めや冷却と合わせて考えることが重要です。
血抜きが必要な理由
魚の血液は、魚肉の色や風味などに影響することがあります。
例えばカツオを対象とした研究では、脱血した魚で特定の揮発性アルデヒド類やアルコール類が少ないことが確認されました。研究では、血液と脂質の相互作用によってこれらの成分が生成する可能性が示され、脱血処理によってこれらの成分を低減できる可能性が示されています。ただし、これはカツオを対象とした研究結果です。血抜きによる効果は魚種や処理条件によって異なるため、すべての魚で同じ効果が得られるとは限りません。
血抜きをうまく行うポイント
血抜きをする場合は、魚種に適した方法でできるだけ早く処理することが大切です。血抜き後は魚を速やかに冷却し、その後も低温を維持しましょう。「血抜きをすれば鮮度が保てる」と考えるのではなく、締める → 必要に応じて血抜きする → 速やかに冷やすという流れで考えると分かりやすいでしょう。
クーラーボックスでの
保存方法
魚の品質を保つためには、クーラーボックス内の温度管理が重要です。
氷・海水・海水氷の使い分け
氷や氷と水を組み合わせた方法などを利用して、魚体をできるだけ早く冷却し、持ち帰るまで低温を維持しましょう。氷と水を組み合わせた冷却方法は、魚体の表面に冷たい水が接触することで、魚を冷却する方法の一つです。また、氷スラリーを用いた魚の冷却・致死処理についても研究されています。
釣り場や魚種、魚の大きさ、持ち帰るまでの時間などに合わせて、魚全体を十分に冷却できる方法を選ぶことが大切です。
魚の入れ方
釣った魚は、できるだけ早く冷やして低温を保つことが大切です。氷で冷やす場合は、魚全体が十分に冷えるように配置しましょう。魚を袋などに入れて氷と分けて保存する方法もありますが、「魚を氷に直接触れさせてはいけない」と一律に考える必要はありません。一方で、氷やクーラーボックスが汚れていると衛生上の問題につながる可能性があります。魚の汁などが他の食品に付着しないようにすることも大切です。
魚種や保存方法に応じて、十分な冷却と衛生管理ができる方法を選びましょう。
夏場・冬場での保存の違い
夏場は外気温が高く、魚やクーラーボックス内の温度が上がりやすいため、特に早い冷却と保冷が重要です。
冬場でも温度管理を不要と考えるのではなく、魚が高温にならないよう、持ち帰るまで適切な低温状態を維持しましょう。
季節に関係なく、釣った魚はできるだけ早く冷却し、持ち帰るまで低温を維持することが重要です。
持ち帰り後の保存方法
【冷蔵・冷凍・熟成】
釣った魚は、持ち帰った後も適切な温度と衛生状態を保つことが大切です。
すぐに食べる場合は冷蔵、保存期間を延ばしたい場合は冷凍など、食べる時期や用途に合わせて保存方法を選びましょう。
高温の状態で放置しない
高温の状態で長時間放置すると、魚の品質変化が進みやすくなります。持ち帰った魚はできるだけ早く冷蔵または冷凍し、保存中も適切な温度を保ちましょう。
なお、冷凍は魚の品質を改善する処理ではありません。冷凍する前の魚の状態や、凍結・保存・解凍の条件によって、最終的な品質が変わります。
そのため、冷凍する場合でも、釣り上げてから冷凍するまでの温度管理が重要です。
衛生管理を徹底する
魚を扱う器具や容器は清潔なものを使用し、魚の汁などが他の食品に付着しないよう注意しましょう。
保存する際は、魚を清潔な容器や袋などに入れて、他の食品と分けて管理することが大切です。
また、生食する場合は、魚の鮮度だけでなく、寄生虫や食中毒のリスクについても考える必要があります。
冷蔵・冷凍を使い分ける
すぐに食べる場合は冷蔵保存、すぐに食べない場合は冷凍保存を選ぶなど、食べる時期に合わせて保存方法を使い分けましょう。厚生労働省の衛生管理資料には、生鮮魚介類の保存温度として「5℃以下」とする管理上の目安が示されている資料があります。一方、食品衛生法上の「生食用鮮魚介類」には「10℃以下」という保存基準があります。これらは対象や制度上の位置付けが異なるため、「5℃以下なら一定期間安全」という意味ではありません。家庭で保存する場合も、できるだけ低温を保ち、長時間放置せず、早めに食べることが重要です。
熟成する場合は適切に管理する
魚種によっては、適切な条件で一定期間保管することで、食感や風味が変化します。
水産庁も、魚種や産地、時期によって歯ごたえや熟成する速度が異なり、魚を寝かせる「熟成」が行われていることを紹介しています。
いわゆる「熟成」では、魚を一定期間保管し、その間に生じる食感や風味の変化を利用します。ただし、魚種や保存条件によって変化の進み方は大きく異なります。
また、「熟成すれば必ず旨味が増える」と一律に考えることもできません。魚種や条件によって成分や食感の変化は異なります。実際に、マツカワを低温で長期間保存した研究では、長期間の保存によって必ずしも濃厚な旨味が確認されたわけではありません。
熟成による食感や風味の変化と、食品としての安全性は別に考える必要があります。
特に家庭で生食用の魚を熟成させる場合は、温度・衛生管理が不十分だと食中毒のリスクが高まる可能性があります。魚種や保存条件について十分な知識がない場合は、長期間保存した魚を生食することは避けるのが安全です。